相手の頭の中を想像して伝える
自分が伝えたいことと、相手がイメージがしたことを一致させるのは工夫が必要です。学校の授業で先生が黒板やホワイトボードを使って要点をまとめたり、教科書に線を引くように教えたり、知って欲しいことや理解して欲しいことを伝えようとさまざまなことを実践しています。生徒や学生が真剣に100%コミットして聞いていればいいのですが、それでも、伝えたかったことの半分も伝わらないということがあります。しかし、大学の教職課程をとって、教育実習にいくとその大変さに気づきます。授業準備がいかに苦労が多く、工夫もしないと伝えることができないということに気づきます。先生の体験をすることで先生が何を伝えたかったのかが少しずつわかるようになるのです。経験、体験したことを通して私たちは物事を見ています。相手と同じイメージを持つということは、決して簡単なことではありません。
共通体験をしていると伝えやすさが格段に変わります。ハワイに行ったことがある人に、ハワイの良さを伝えるのは簡単です。自分が体験したことを相手も体験していると、共通体験・共通言語が生まれます。しかし、一度も海外に行ったことがない人に、ハワイの良さを伝えるのは、苦労します。相手がハワイに興味があって、映像やガイドブックなどを見ていれば、また違うかもしれませんが、それでも100%は伝わりません。ハワイに行ったことない人同士がハワイの良さを語り合ったら、イメージとイメージで話すので、言葉では合意するかもしれませんが、真実とは異なることがあります。それぐらい、体験は理解の重要なポイントです。
同郷の人と意気投合したり、同じスポーツをしていた人と盛り上がることができるのは、双方が相手の頭の中を想像しやすいからです。しかし、共通の言語を持っているが故に思い込みが違ったイメージになることがあります。例えば、名古屋駅のコンコースには「銀時計」「金時計」という待ちわせによく使われる場所があります。「コンコースの時計で待ち合わせをしましょう」というと、お互いにイメージするものが一致することもあれば、別々のところをイメージしていることもあります。大切なことは、「その時計は、銀時計?金時計?」と最後までイメージの一致をさせることです。わかっているつもりではなく、わかっているからこそ、最後まで聞かないといけないのです。
相手の頭の中を想像するときに、考え方の特性も理解するとさらに伝わります。結論から聞きたい人もいれば、順を追った説明を期待する人もいます。根拠がないとピンとこない人もいますし、ビジュアルなどのイメージがないと伝わりにくい人もいます。相手がどのような情報の受け取り方をするのかを想像することは大切なことです。一番やってはいけないことは万人ウケするような、当たり障りのない伝え方です。誰にも響かず、誰も行動しないことになります。
伝えることの難しさは今に始まったことではありません。論語にも「子曰く、辞は達するのみ」と書いてあります。伝えることは先人も苦労しています。一朝一夕で身に付くものでもありません。日々、勉強し続けなければいけいないテーマです。